アンダーワールド

アレな散文コンテスト 一休杯開催!に参加。



うっかり恋をしてしまったので、あたしは急いでいた。
彼の人の手がかりは彼が屋台の一平ちゃんで食べ残したボルシチ・オンリーだった。
あたしはZiplockに入れたボルシチを胸の前でしっかりと抱えなおすと
意を決してその洞窟に足を踏み入れたのだった。

するとあたしをあざ笑うように逃げていくものがあった。
もちろんそれは半蔵門線だった。
まったく半蔵門線にはタチの悪いところがある。
それが魅力だという人もいるけれど、あたしはまったくそうは思わない。
「いいかげんにしなさいよ!」
あたしはあの人を乗せて走り去っていく半蔵門線を罵倒すると
すぐさまらくだに跨った。
らくだは砂漠を旅するのにはなかなか具合のよいのりものだ。
感電する恐れのあるレールをたどって洞窟を旅するのには
多少不便かもしれないが、砂漠での活躍ぶりはそれを補ってあまりある。
あたしは月を思い浮かべた。
それから月灯りに照らされた砂丘を思い浮かべ、
目だけ残して顔を隠しているお姫様のうすぎぬのヴェールに思いを馳せた。
さらに銀の匙にまで連想を働かせたところでらくだは感電死してしまった。
よかった、ゴム長をはいていて。
らくだには悪いことをした。
あたしは肘まであるピンクのゴム手袋をしっかりとはめ直して歩き始めた。
象でも落ちていないかな? と思いながら。

まもなく象が落ちているのを見つけた。
「拾ってもいいかしら?」とあたしが聞くと
「いいよ」と象が答えた。
象は4本の足にそれぞれ黒いゴム長をはいていた。

完璧。

あたしは脚立を使って象の背中によじ登った。
象の首のつけねのくぼみに居心地よく座れることを確かめると、
脚立もきちんと折り畳んで象の背中に乗せた。
「しゅっぱつシンコー」とあたしが言うと
象はゆっくりと歩き始めた。
「ねえ、きみ。」歩きながら象が言った。
「もしかして・・・もしかしてだよ。
 もしかしてだけど、きみはカレーを持っているんじゃない?」
「いいえ、残念だけど」
あたしは答えた。
「あたしが持っているのは、あの人のボルシチだけよ」
「いいんだ。もしかしたら、と思っただけだから」
それから象は押し黙り、ゆっくりと歩き続けた。

次に象が口を開いたのは、あたしたちがパンの木を見つけて
パンの実で遅い昼食を摂っているときだった。
「ちょっとした憧れなんだ」
「うん?」
「カレー」
「うん・・・わかると思う」
それから、あたしたちの間に流れる空気は少しばかり親密になり
二人で小さなクロワッサンをたくさんたくさんほおばった。

あたしはパンの木の幹のコインロッカーにボルシチをしまった。
「さあ、そろそろ行きましょう」
「もうすぐかい?」
「もうすぐよ」
象は少し悲しそうに笑うと右肩に脚立をかけさせてくれた。
そしてまた少し、あたしと象だけの旅が続いた。

とうとう半蔵門線を見つけた。
半蔵門線はまだあたしたちに気付いていない。
のんびりとホームに挟まれてくつろいでいた。
あたしは象の背中から飛び降りざまに、ライトサーベルを抜き放ち
SUIKAを自動改札機に滑り込ませた。
そしてすばやく半蔵門線に斬りつけた。
その瞬間運転席に座る運転士の姿が目に入った。

彼はあたしの愛用の枕だった。
まちがいない。
人間のフリをしているけれど、あたしにはわかった。
あたしが自分の枕のニオイをまちがえるはずがないじゃない?

ただひとつわからないのは、なんで彼が半蔵門線に荷担しているのか、ってことだった。
だって彼はあたしの枕なのに!
あたしは鼻腔いっぱいになつかしい枕のニオイを吸い込んだ。
もう二度と安らかな眠りが訪れないことを思うと涙が頬を伝った。
「だってあなたが悪いのよ」
あたしは今一度、半蔵門線を斬った。
そばがらとも綿とも羽毛とも判別のつかない何かが舞い上がり、
あたり一面にあたしの枕のニオイが広がった。
それからそれは静かに消え去った。
あたしに永遠の不眠症が訪れた。

「コーカサスでの約束を忘れたわけじゃないんだ」
半蔵門線のドアが開いてホームに降り立った男がすれ違いざまに言った。
でもあたしは忘れてしまってるし、そもそもコーカサスでは十分な収穫はなかったのだ。
きっと人違いなのだろう。
その男は足早に自動改札を通り過ぎていく。

いやな予感がした。
あたしは急いで半蔵門線に乗り込んだ。
やっぱり遅かった。あの人はもういなかった。
「きっと神保町だよ」象が言った。
「そうね」あたしは力なく答えた。
そしてあの人が落としていったに違いない
森永ミルクキャラメルの黄色い箱を拾い上げた。

箱を開くとキャラメルが二つ。
内箱の内側の白い部分にはボールペンで「ボーキサイト・ホテル」と綴られてた。
あたしはキャラメルをひとつほおばると
もうひとつを象にやった。
それから内箱を抜き取り、平たくのばすとジーンズのポケットにねじ込んだ。

「行くのかい?」
象が聞いた。
「うん」

「また会える?」
「たぶん」
「じゃあ、そのときは神保町で」
「神保町で」

あたしにはもはや枕もないし、象とはお別れしなくてはならない。
それでも舌の上でキャラメルは甘くとろけて
鼻の奥がツンとするのを押しとどめてくれた。

それに、パンの木のコインロッカーにはボルシチだってしまってあるしね。
「今度、神保町で会ったら必ずカレーを奢らせてね」
あたしが言うと、象は本当に嬉しそうに笑った。

それからあたしはひとり、銀座線に乗り換えたのだった。
「ボーキサイト・ホテルか・・・」


漆黒の闇の窓ガラスに自分の顔を映してみる。
右の眉が半分消えかかっている。
あたしはポケットの中でむなしく
ライトサーベルを握りしめる。

ああまったく。
迂闊にするもんじゃないわ、恋なんて。


(つづかない)


★★★★★★【アレな散文コンテスト 一休杯】★★★★★★
- 企画内容 -
この中でアレな人は手を挙げて?はい、挙げなかったアナタ。
アナタは間違いなくアレ。
ってわけで、アレな散文を書いてTBして下さい。
アレな感じなら何でもアリ。
エントリー期限は7/2 23:59まで。
アレって何?と聞くのは禁句です。

- 参加資格 -
アレな人、もしくはドン引きされる覚悟のある人

- 審査方法 -
一休杯なので、エントリー締め切り後にエキブロ代表のアレ、
審査委員長のikkyuu_as_cousakuさんが作品の審査講評をしてくれます。

※アレでも参加出来るようにテンプレを文末にコピペお願いします。

開催地 毎日が送りバント (http://earll73.exblog.jp/)
審査員 Roller skates Park (http://cousaku.exblog.jp/)
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by Ks_trunk | 2005-07-02 21:56 | アレ

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